タッパーで泳ぐ魚

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メラニーが帰国した翌朝、
「この魚、インターナショナル・スクールにあげちゃう?」とシェイニー。

オフィスで飼っている熱帯魚の青いベタは、メラニーがオフィスに持ってきたもの。

もういらないでしょ?、とわかりやすいシェイニーと、
魚を飼うことは好きでもないのに、でも、メラニーが残してくれたものだからここで守らないと・・・、
とややこしい思考をする日本人の私。

「ここで飼おうよ」小さい声で提案。
「いいけど、それなら水を替えてあげないとかわいそうだよ!」とシェイニー。
はい。

メラニーと私とで、時々家に持ち帰って水を替えていた。
車で水がこぼれないように持ち帰るのがけっこう大変よね、と言うと、

「ここでできるよ!みんながメキシコに行ってる時、私水替えたもん」とシェイニー。
「どこで?」
「ここ」
「どこで(水槽にしている)ボトル洗ったの?」
「キッチン!」

共用給湯室にはルールがたくさんある。
雑巾をしぼらないでください、うがいをしないでください、洗った食器は速やかに持ち帰ってください・・・
細かく観察しては、すかさず苦情を言う人もいたり。
確かに、「魚の水槽を洗わないでください」とは書いてないけれど。

「だめだよ、シェイニー!キッチンでお魚のもの洗うなんて」
「なんで?」

アメリカ人のシェリルが、日本ほど神経質な国はないと言っていた。
「これは廊下を歩くスリッパ、これはトイレのスリッパ、ここはスリッパなし・・・、
はぁ~、もう日本人って!」

友達の家の台所で手伝おうとして、うんざりして諦めたという。
「手を拭こうとしたら、『あー、だめだめ、それは食器用!手はこっちのタオル!』。
手を拭くタオル、食器のタオル、テーブルを拭くタオル・・・!アメリカでは全部一緒だよ~」

シェイニーが魚の水替えの手順を解説。
あのね、まずはこのタッパー(シェイニーが普段お菓子を入れているもの)に水を入れるでしょ、
それで少しおいて、常温になったらタッパーに魚を入れて、それからボトルを洗うの。

「魚をタッパーに入れるの!??」
「そうだよ」
「食べ物入れてるタッパーでしょ~?」
「気にしないよ、フィッシーだもん」

生の魚を食べる日本人が呆れるのもおかしいかもしれないけれど・・・。

メラニーはつくばの自宅でも熱帯魚を飼っていた。
メラニーアメリカに帰省するので、熱帯魚を預かった時のこと、
ある朝起きてみると、魚が死んでしまっていた。
年末の休暇中のことで、おそらく寒すぎたのだろう。

単身アジアの小さな国にやってきて、
ペットのお魚が大事な話し相手だったのかもしれないのに、どうしよう・・・。
半泣きになりながら、アメリカのメラニーにメール。
メラニーが大切にしていたのに、本当に本当にごめんなさい。庭に埋めました・・・」

「いいのよ~!私なんて100匹は殺してるわよ。日本に帰ったら別なの買うわ」
優しいメラニーから返信がくる。

そしてその半年後、「庭にお魚のお墓を作りました」なんて、あまりに子供っぽくて
感傷的すぎたことが判明。

メラニーとL.A.のお嬢さん(ジェナ)の家で休暇を過ごした時のこと、
ある朝、小さな水槽を覗きこんで、「あ、魚が死んでる!」と6歳のエバン。

「どれ?ほんとだ」
と言うと同時にトイレにざざっと捨てて、「エバン、水流して」とジェナ。

「おさかなが死んじゃった・・・」
泣き出しそうな3歳のカースンに、
「年寄りだったんだからいいのよ。さぁ、忘れて!」とジェナとメラニー

ひとり呆然とする私。

ある時、シェイニーに聞いた。
「トイレに魚を流すのを見てすごくびっくりしたけど、普通なの?」
「うん、普通だよ。子供はお墓を作りたがるけど、親は面倒だからだいたいトイレに流す」
「・・・。ペネロピが飼ってた魚をゴミ箱に捨てた、ってメラニーがすごく呆れてたことがあったの。
トイレはOKなの?」
「うん、トイレは水に返る感じだからだと思う」

風習というのは、本当にそれぞれですね。