インドの男の子

日本とインドの文化はとても似てるんだよ、とインド人Sさん。

「年長者を敬うし、家族を大切にするし、年老いた親の面倒をみるのは
インドでも子供の役目なんだ」とのこと。

なるほど、でも押しが強くおしゃべり好きなインド人と
控え目で物静かな日本人は、だいぶタイプが違う気もするけれど。

「でもインドの人はおしゃべりが好きで、ヒンズー映画を観てもわかるけれど、
賑やかで楽しいですよね。日本人は静かでしょう?」と聞くと、

「いや、インド人も静かだよ」と彼。

本当に!?

「人口が多いから働き口が少ないでしょう、ここにひとつの職があって、
たくさんの人が狙ったらどうなる?

人より自分をなんとか目立たせて、アピールしなくてはいけない。
からしゃべるけれど、家では静かだよ」

なるほど、世界で2番目におしゃべりな国(と私が決めた)中国も、
人口の多さでいったらインドと1、2を争いますね。

そんなことを考えている間も、彼のアクティブな息子Dくん(2歳)は
私たちの前を行ったり来たり、休むことなく動き回り、

広い市役所のあちらの端まで届くような大きな声で、ABCの歌を歌い
(ABCは英語で、Dから後がなぜかヒンズー語)、あふれる魅力を
アピールし続けていました。

「アンティー、なんとかかんとか」
母国語でしきりに私に話しかける彼。

つややかで黒く長い睫毛とつぶらな瞳。
人懐こくて愛くるしい。

なんて言ってるのかな?

「そうなの?おしゃべりが好きなのねー。元気ねー」
と日本語で返すと、

「彼は『どうしてあの電話は泣いてるの?』と聞いたのよ」と
壁のポスターを指さす彼のママ。

ああ、ごめん、ごめん。

「どれ?どの電話?」
見ると電話が涙をこぼすイラストの上には、『いのちの電話』の文字が。

「あぁ、これはね、彼は興味がないと思う。
自殺を考える人が電話するサービスでね・・・」

両親に英語で説明を始めた時にはすでにDくんは別な興味の対象を見つけ、
代わりに目を丸くする父親Sさん。

「自殺しようとする人が電話するサービス!?
あ、なんだ、そうか、カウンセリングか!
自殺をする人が電話すると殺してもらえるサービスかと思ったよ!」

さて、翌日、
「昨日、あなたと別れてから息子が、『アンティーはどこ?アンティー
呼んできて。アンティーに会いたいの』って泣いたんだよ。あなたのことが
大好きになったみたいだね」とSさん。

なんてかわいいDくん。

『アンティー』というのは、きっと、『おばちゃん』のような感じでしょうか。