11月17日、第15回ブループラネット賞受賞者の講演を聞いた。
今年度の受賞者2名のうちひとりは史上2人目の日本人、
宮脇方式と呼ばれる森林回復・再生法を確立した宮脇昭氏。
小柄ながら姿勢がよく、どこか雰囲気のある落語家のような風貌。
「時間が短いので早口でまいります」の宣言通り、
テンポ良い講演の中で何度か繰り返されたフレーズは、
『本物とは厳しい環境を乗り越えてなお生き続けるもの』。
支柱が必要な街路樹は偽者、植樹から3年を過ぎてもまだ経費がかかる樹は偽者、とのこと。
その土地に本来生息していた種類の木による、限りなく自然に近い森づくりを確立し、
国内外で青々と茂る森とその土地独自の生態系の再生に成功されている。
繰り返されるフレーズに、人間も同じかも、と思いが巡る。
人との関係も、「厳しい環境を乗り越えてなお生き続けるもの」が本物なのかもしれない。
友情にしても、恋愛にしても、結婚にしても。
豊かな常緑の森の写真を眺めながら少し逸れたことを考えていると、研究者が質疑の手を上げる。
「僕も厳しい環境を乗り越えて生き続けるタフな研究者でありたいと思います」の前置き。
すごい。
何を重ねるかは人それぞれですね。
万里の長城沿いに本来の森を再生させるプロジェクトを率いた時には、
日本からも3千名ほどのボランティアが木を植えるために北京に集まったとのこと。
「旅費も自分持ちで、どうしてわざわざ植樹に参加したの?」と聞かれた女性が、
「一生のうちで、何かひとつくらい、いいことをしてみたかったんです」と答えたという。
「人は何か良いことをしたいのです。準備ができているのです。
研究者のみなさん、科学的なシナリオを書いてください。導いてください」と宮脇氏。
今日は雨の日曜日、講演会で配られたパンフレットを取り出してみる。
78歳と知って、驚いた。
受賞によせて書かれた12ページに渡る半生記ともいえる文章は、とても読み応えがあった。
岡山県の農林学校に入学したのを起点に一本の道の上で確実に歩を進め、信じたものを譲らず、
78歳にして未だ情熱に満ちて、まだまだたくさんのプロジェクトを国内外に抱えている。
マレーシアとブラジル・アマゾンの熱帯林再生に成功し、
現在はアフリカ・ケニアのプロジェクトに取り組んでいるとのこと。
『命ある限り木を植える決心をさらに強くしています』と結ばれた文章に、
ほーっとため息の出た午後でした。