ラジオ体操

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10年前の来日直後、事情があってやむを得ず、日本のラジオばかり聞いていたというカナダ人の友人S。

「あの2か月は辛い時期だった。日本語は全然わからなかったし」
寂しい表情を見せたかと思うと、

「朝の6時にピアノの練習の番組があって、日本人は朝一斉にピアノを練習するんだなぁ、と思ってた。
あとでわかったんだけど、ラジオ体操だったの!」
(英語で。『ラジオ体操』だけ日本語で)

爆笑する日本人たち。

ひとり、「?」の顔のネパール人同僚A。

「Aが『ラジオ体操』がわからないって」
Sに言うと、
「あ、そうか、radio exercisesなの。ピアノの伴奏つきで、誰かが『いち、に、さん』って言うんだけど、
そのカウントに合わせてピアノを練習するんだと思ってたの!」

また爆笑する日本人。

ふぅん、という顔のネパール人。

「朝早くからピアノの練習するなんて、日本人は真面目だなぁと思ってた。
まぁ、エクササイズでも変わらないけど!カナダにはそんなのないから」

伴奏の曲を覚えてしまうほど「ラジオ体操」を繰り返してきた私たちにとっては楽しい話だったけれど、
ネパール人Aにとっては、体操とピアノの違いがどうしてそんなにおもしろいのか、ピンとこない様子。

ネイティブ同士の英会話を聞いていて、文章は聞きとれても話のポイントがよくわからない、
ということがありますが、こういうことなのだろうな、と思いました。

そういえば、春のある月曜日のこと。

「昨日はどうしてた?」
ネパール人Aに聞かれ、

「近所の小さな公園にお花見に行ったの。大きな桜の木が3本ある公園に。
そうしたらね、私と同年代の男の人が2人やってきて、無言のまま、ほんのこれくらいの小さなシートを敷いて、
向かい合って座ったと思ったらポータブルの将棋の板を出して、将棋を始めたの」

将棋の板に、缶コーヒー2本。
はらはらと時折桜の花びらが舞う中、なんだか、とても微笑ましい光景でした。

そんなことが言いたかったのですが、「それで?」の顔のA。

「あ、将棋ってわかる?」
「ううん」
「日本の伝統的なボード・ゲームなの。チェスみたいなルールで、でも最近は若い人はやらないの。
私も実はルールを知らないし」
「ふうん(で?)」

「・・・それで、なんだかちょっと、いい雰囲気で素敵だったの。桜の花びらが落ちてきて・・・」
「・・・・・・あぁ、へぇ(なんのこっちゃ?)」

事情が呑み込めないないままに頷く心優しいネパール人A。

未解決のままに終わった会話は数知れません。
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