9月11日。
夜更かししたおかげで、目が覚めると朝9時。
メラニーはベッドで本を読んでいる。
「おはよう、メラニー。ビーチに行く?」
「もちろん!」
歯磨きだけして水着に着替えて、階段を降りてビーチへ。
なんて幸せ。
夜中の雨で海の水はたっぷり、でも波は少ない。
水は昨日より温かくて、ぬるい温泉のよう。
ゴーグルを買って岩場で魚ウォッチング。
メラニーはマイ・シュノーケリング・スタッフと水中カメラを持参している。
20日間の旅、こちらはなんとか荷物を減らそうと努力したというのに、
まったくなんてタフな人だろう。
波に漂いながら、20種類ほどの魚を見られた。
しっぽだけ黄色い魚、上半分が黄色くて下が紫の魚、縞模様、水玉模様、
ふぐのような魚・・・。
私は泳ぎも下手だし、水も怖いし、魚を見るのも好きじゃない。
ところが、楽しくて楽しくて、時間を忘れて魚と過ごす。
疲れたらビーチのバーでマルガリータを飲んで、またシュノーケリング。
気がつけば夕方。一日水に潜っていた。
そして、手のひらと足にはとがった岩でつけた無数の細かい傷。
「シュノーケリングするなんて、思ってた?」とメラニー。
「思ってなかった!シュノーケリングも、パラセーリングも」
「やりたいことがあれば、なんでもできるのよ」
「メラニーと一緒ならね」
「ひとりでもできるわ。行きたいところに行けるし、
世界中のどこだって、住みたいところに住めるのよ」
世界中のどこでも、住みたいところに住める。
考えたことなかったな。
アカプルコ名物のダイビングがある。
男性パフォーマーが崖の上から海に飛び降りるショー。
海老の詰まったタコス(最高!)のランチのあと、シャワーを浴びて、
メラニーとダイビング見物に。
レストランのバルコニー・バーの特等席をキープ。
そして、ここでもストロベリー・マルガリータとパイナップル・マルガリータ。
そろそろマルガリータも飲み収めと思うと寂しい。
隣のテーブルにひとり座る、年配の派手な装いのアメリカ人女性が声をかけてくる。
「きれいな景色ね!」
「ほんと、きれいですね!」
「ダイビング見るの初めて?」
「初めてです。楽しみ!」
「あなた、日本人?きれいな英語だけど」
「ありがとうございます。日本人です」
「やっぱりね!留学生に英語教えてたことがあるの。
素晴らしい生徒は日本人とベトナム人だったわ。勉強熱心で。最悪なのは中国人ね」
ダイビングにはまだ時間があるので、レストランのショップをチェック。
ショーケースに、ターコイズが入ったシルバーのブレスレットを見つける。
太陽と月をモチーフにしていて、とてもメキシコっぽい。
旅の思い出に、買おうかな。
値札を見ると、90。
「90ペソ?(900円?まさか)」
「ノー、ノー。USダラー」
「(9,000円ね。Make senseだわ)グラシアス」
追いかけてくる中年の少し太った女性店員。
「ディスカウントできます」
「いくら?」
電卓をたたく。82ドル。
「まだ私には高いわ。すごく素敵だけど。グラシアス」
「質がいい品ですよ。ターコイズですから」
「わかるけど、私には高いの。リッチじゃないから買えないだけ」
「・・・オーケー。これがファイナルです」
また電卓を見せてくる。78ドル。
「50ドルになる?なるなら買うし、ならないなら買わない」
「オー、ノー」
「そうですよね、もう忘れて」
それでもメキシコのコギャルといった風情の若い2人の店員と、
なにやら相談している。
戻ってきて、とても無理だという中年店員。元は90ドルなんですよ、と。
「そうよね、OK。じゃあ買わない。でもグラシアス」
カラフルな花瓶を見つけた。
叔母たちへのお土産にしよう。
ひとつ10ドルを、4つ買うからと8ドルにしてもらう。
「あの店員たちとも話したんだけど、65ドルならどう?」
まださっきのブレスレットの話?
「OK。じゃぁ60ドルなら買う。でも65なら買わない。どう?」
不機嫌に頷いて背中を向けるコギャル。成立したらしい。
ブレスレット60ドルと花瓶32ドルで合計92ドル。
ディスカウントしたのでクレジット・カードは使えないとのことで、
ペソのキャッシュで払う。
「レートはいくら?1ドルいくらですか?」
「1ドルが10ペソ。(電卓をたたく)だから、920ペソ。オーケー?」
それならオーケー。
1,000ペソ札を渡す。
不機嫌なまま、おつりを75ペソ渡してくるコギャル。
「・・・おつりは80ペソじゃない?」
メキシコの買い物は気が抜けない。
ダイビングを見学。
数人のパフォーマーが左の崖から飛び込んで右の絶壁を命綱なしでよじ登り、
右の崖から飛び込むという、シンプルなショー。歓声があがる。
メラニーがブレスレットのショップを見たいというので、ダイビングの後、戻る。
さっきの中年店員。
「これ、ありがとう。気に入っています」
早速腕にしたブレスレットを示す。
「あの、あの若い店員たちが、支払いが足りないと言ってるんです」
え、まだ続くの?
コギャルたちもやってくる。
中年店員が電卓を示す。
「1ドルは11ペソだから・・・」
「ちょっと待って。さっき、レートを聞いたでしょ、
1ドルは10ペソって電卓を見せたでしょ、彼女たちもそこにいたし、
私はあなたたちが言った金額を支払ったのよ。
これ以上、私は絶対に払いません」
まったく、腹が立つとどうして英語が早口でしゃべれるのかな?
アカプルコの美しい夕日。
夜8時半にやっと暮れてくる。
またいつか、ここで見られますように。
明日は夕方までビーチで過ごし、バスでメキシコ・シティに戻ります。